アイヨリイデ、アイニカワル

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独特の香りの漂う工房の中。発酵臭と呼べるそれは、けれど他の何かには例え難くて、僕には藍の匂いとして認識された。 背中には控え目な優奈の温もり。 引っ込み思案だった彼女。 華奢な身体は病弱だったからだけじゃないだろう。 心もきっと弱かった。 異質な返答をした参加者が居た。 「音感が同じなので、愛情の愛を思います。どうして日本人はアイと言う同じ響きをこの色に当て嵌めたのでしょうか」 哲学的だなと思う。 「本当だ。普通はピンクが赤だよね」 それは多分、巷に溢れるハート・マークの色のイメージからの刷り込みだろう。 情熱の赤ではなく、悲哀を思わせる青を当て嵌めたのは日本では長らく自由恋愛など認められなかったからなのだろうか。それくらいしか僕には思い浮かばない。 「おや、そう言えばそうですね。私も考えた事はありませんでした」 工房の主はそう答えてから少しのあいだ黙り、何等かの答えを見付けたか再び口を開いた。 目元も口元も悪戯っぽくして。
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