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「先生も谷元くんに教えれて楽しかったよ」
迷惑をかけたくなかった。最後くらい生徒としてではなく、一人の人間として別れを言いたかった。けれどそれは叶わなかった。
「っ……」
「ごめんね、ごめんね……私も卒業まで教えたかった……」
◆
ここの校舎は設備がよくて、実験室の窓を開けても軋む音はしなかった。
「谷元先生はなんで先生になったんですか?」
試験管を揺らしつつ、その答えに詰まった。
「先生?」
「ん?」
「もう多分中和しましたよ。しかもプリントが風で飛ばされてますよ」
「やべ」
黒かった液体が綺麗な無色透明になっている。その上溶液の上にプリントが被さってる。答えを考えてるのに気を取られてしまった。
「突然変異かな」
「なにそれー?」
「んー、なんだろうね」
明日、隣町の高校に向かおう。そして僕の本当の教師志望理由をあの人に伝えにいこうと思う。
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