ラムネとガラス玉と彼女の瞳

4/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 ラムネのプラスチックボトルを捨てて帰ろう。ゴミ箱を探して視線を巡らせた、そのときだった。  いつの間にか、僕の隣に浴衣姿の女の子がしゃがみ込んでいた。  年は同じくらい、金髪に青い目。  浴衣を着た海外の人なんて、いまどき珍しくはない。金髪碧眼だって珍しいとは思わない。  僕が彼女から視線を外せなくなったのは、タイミングの問題ではない。  彼女は、ラムネのボトルと持っていた。そして、反対の手の親指と人差し指でつまんでいたのは、ラムネのボトルから取り出したであろうガラス玉だった。  かつて僕がそうしていたように、彼女はガラス玉の中に目の前の景色を閉じ込めているようだった。  僕が視線を外せないでいると、彼女は目線だけをこちらに寄こし、悪戯っぽく笑いながら再びガラス玉へと視線を戻す。僕は勘違いではないことを知る。  いま僕がかつての彼女のように景色を遮るようにして反対側から覗き込めば、彼女が持つ無色透明のガラス玉は綺麗な青に染まるのだろう。  言葉にしがたい感情がこみあげると同時に、口元が緩む。  それを隠すように一度手元に視線を戻して自分の手にあるガラス玉をラムネのボトルに戻してから、僕は平静を装いながらゆっくりと立ち上がる。  十年ぶりに見るガラス玉越しの青い目がどれだけ綺麗だったか、英語が話せるようになった僕と日本語が話せるようになった彼女がそれからどんな話をしたか――それは、僕だけの秘密だ。  ただ、十年前のひと目惚れが、ひと夏の淡い恋で終わったわけではなかったことだけは言っておこう。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!