くちなしの香り。

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「どうして・・・」  スーツケースから手を放し、香りの元を探すために歩き始める。  実を結べない花。  なのに、喜びを運ぶと言われる花。 『憲に、良いことありますように』  小さな茶碗をはじいたような、ひな鳥の危うい声。 『憲は、どっちが良い?』  大地に根ざした、深い、大人の、声。  記憶の中の色々な声と言葉が、風に吹かれ香りに抱き込まれ、いく先を見失う。 「かつみ・・・」  喜びって、いったい、何だ。  良いことって、どんなことだ。  白い花の幻に、息が詰まりそうだ。 「勝巳」  教えてくれ。
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