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ぱらぱらとアスファルトに水が跳ねる固い音にまじって傘がぴん、と雨粒をはじく。
後ろから雨にまじってぱしゃ、と水たまりにはまる音がして敢えてゆっくり振り向く。少し走ってきたのか彼の制服のスラックスの裾は既に濡れてしまっている。
「おはよ。今日は早いんだね」
隣に並びながら朝に弱い私を茶化す。
1つ目は予想通り。
「たまたま早く起きれたから」
たまたま、の部分を少し意識して、何でもないふうに。
「あ、傘新しくしたんだ」
彼が私の新しい傘を、雨の日にだけ見れる青空みたいだって。すごく似合ってると褒めてくれたから、私の新しい傘はお気に入りの傘になった。
同じものをみて、同じように思えたことが何よりも嬉しい。
思わず緩みそうになる頬に力を入れて変化を悟らせまいとする。
単純なヤツだ、と思われたくなくて私は前を向いたまま気のないような返事を返した。
いつもそうやって言葉を送っては、彼を傷つけていないか勝手に不安になる。
少し間を置いて何も無い風で隣を見あげれば傘の青に邪魔されていつもの場所に彼の顔が見えない。だからといってのぞき込むのも違う気がする。
私はバレないようにそっと目線を前に戻した。
あんなに楽しみだったせっかくの雨なのに、全然楽しくない。
いつの間にか濡れてしまっていたローファーがひどく気持ち悪かった。
私たちが下校する頃には雨もすっかり止んでいて、朝に活躍した傘もただのお荷物になった。
また乾いた晴天がしばらく続いていて、雨の日の空は開かれることなく傘立ての中にある。
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