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世界が戻った。無重力から一転、重力が戻ってきて、ひざまづくようにバランスを崩してしまう。胃液が逆流しそうになり、口からは酸素が漏れ、全身から脂汗が噴出している。荒い吐息を吐きつつ、未だに脳味噌ごと揺れているような視界の中で、何があったのか、理解をしようと周りを見渡す。八代と目があった。
「どうです? 母星の住人はイメージとか記憶を相手に触れただけで伝えられるんです。本当は情報の報告とか、現地での情報収集やら潜入を円滑にするために使うんですけど。その、地球の人に使うと気持ち悪くなってしまう人が多くて……大丈夫ですか? ともかく、これで信じてもらえたでしょうか」
嘘を言っている口調ではなかった。確かに、いま感じたものは文字通り、肉体ごと、五感ごと別空間に弾き飛ばされたように思えた。触れただけであんなことができる人間がいるとは考えられない。だけど、だけど。
「だからって……ふざけるな、そんなこと言われて納得なんて、認めるなんて、わけのわからないままさようならなんて、ふざけるなよ!」
理屈でもなく、論理でもなく、証拠もないけれども、感覚的なところで八代が嘘をついてないことがわかってしまった。たとえ宇宙人でないにせよ、もう会えなくなってしまうことが切ないほどに、確信となって俺の心を貫いてくる。
八代は困ったような、我が儘を言う子供を見るような顔ではにかんで、その青い瞳で真っ直ぐに見つめてくる。それは初めて見る表情で、それだけで俺の胸を締め付けるには十分だった。
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