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楽しい。その言葉は八代の口によって封じられた。キスをされていた。いつからか、俺も彼女も目から涙が流れていて、自分はどこか映画を見るように、場違いに、瞳から溢れる涙が、青い瞳の色彩を映して、綺麗だなんて思っていた。永遠のようにも一瞬のようにも感じた、深くて、切ないキスは八代が離れて終幕を迎えた。そして、おもむろに俺を抱き締めて、耳元で囁くように。
「さようなら、卓巳。名倉卓巳。私の本当の名前は」
彼女が、俺の名前を呼んでくれて、確実に地球の、すくなと日本語や英語ではないだろう発音で、秘密の本名を明かしてくれた直後。
離してはいけないのは分かっていたはずなのに、俺の手から離れて浮かび上がって、UFOに吸い込まれていく。もう会えなくなってしまうことが分かって、もがいてあがいても、もう届かない。
最後に、俺と彼女の「「さようなら」」が重なった。
彼女の瞳から零れ落ちた涙が、雨のように俺の頬を濡らして。そして暖かい光が広がって、目を開けた時には、最初から何もなかったように、夕焼け空のみが存在していた。
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