あちらの家の父さん

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 ばれないように、僕もゆっくりとついていく。ひと月五百円のお小遣いなのに、自動販売機でコーラとか買って。追いながら気が付いた。  このお父さんには、確かに変なところがある。  たまにじっと止まる。ぼんやりと、明かりの方を見て何か考えている。  あと、スーツを着ている。  だから、お父さんていう先入観があるのかもしれない。  僕らの学校の前でも、一度止まった。でも、そのうちにまた歩き出して、結局は電車の駅からどこかへ行ってしまった。  さすがに券は買えないし、買えたって行けやしない。明かりのついた構内で、観察だけはした。  髭とか爪は整えられてて、格好はきれいだ。  でも、ぼろぼろのナップサックを背負って、エスカレータの手すりにつかまり、ゆっくりと下りていった。  とりあえず、女の子をさらったりはしてない。  家に帰ると、ちょっとだけ問い詰められた。 「なんでハンバーク残しちゃうの。そのためのマラソンでしょ」  コーラをがぶ飲みしたからとは、もちろん言えない。  そして、あそこのお父さんには、二度と会うことがなかった。午後の八時になっても、家から出てこなくなった。  変だなあと思っていたら、二週間後に、お母さんが浮かない顔をして報告をしてきた。 「あそこのアパートの清掃してくれって頼まれちゃった」 「なんで僕らが?」 「他にいないから。例の学生さん、事故死したんだって」  老齢の大家さんに鍵をもらって、中に入る。  普通の部屋だった。 「どこで死んだの?」
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