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取調室に入ると、アメコミヒーローのマスクをかぶった小太りの男がこちらを見る。男は少し顔をしかめた。
「今回から私が取り調べを担当させていただきます。」
「…。」
森山は無愛想に顔をしかめたままだ。
「では、森山勇さん。取り調べを開始します。」
「怪盗インビジブルです。」
「失礼しました。ミスターインクレディブルさん。あなたに聞きたいのは一点だけ。盗んだ青色をどこに隠したか、です。」
「黙秘します。」
インクレディブルはいつも通り、沈黙を貫くつもりだ。マジックミラーの向こうでは紀伊さんたちが室内を見守っている。静かなこの空間にピリピリとした緊張が走るのわかる。
「インクレディブルさん、あなたは先日、紀伊警部の取り調べを受けましたね。」
「…おいしいカツ丼でした。」
「そう。とてもおいしそうなカツ丼でした。あなたはその美味さのあまり、うっかり秘密を白状してしまったようですね。」
「…。」
「今まであなたは人間関係の一切を明かさなかった。しかし前回、あなたは自分の家族にっついてしゃべってしまった。これは大きな進歩です。」
「…。」
森山の太い眉がピクリと動いた。
「ですから今回はあなたの家族関係について聞きたいのです。」
「話したとおりです。悪い母親に育てられた。それだけです。」
「娘さんもいらっしゃるんですよね?」
「…。」
「ということは奥さんも。」
「妻は娘を捨てて出ていきましたよ。どっかの偉い社長と不倫してね。とことん女に恵まれない人生さ。」
「そうですか。それは残念でしたね。ではあなたは男手一人で娘さんを育てたのですね。」
「…。」
「大変だったでしょう。今、娘さんはどちらに?」
「…なんで娘のことなんか聞きたがるんですか。関係ないでしょう。」
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