盗まれた青

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「Moriyama.Isamuさん。私には一つの可能性が浮かんでいるのです。それは突拍子も無い話かもしれない。しかし先ほどからあなたの態度を見ていて確信に変わりました。」 そう、これが青色を見つけられない理由。 「青色は、この世にはもう存在しないのです。」 マジックミラーがガタンと揺れた。向こうで紀伊警部とお偉いさんたちが何かを言っているようだ。 「この世に無いのならば、盗まれた色がある場所は一つしか考えられません。『あの世』です。」 静まり返る取調室。森山は、ふふ、と笑い出した。 「娘は、病気になる前まではとても元気な子でした。いつも青空の下で走り回っていてね。かわいらしい、最愛の娘。碌なもんじゃなかった私の人生に、神様がくれた唯一の宝物。」 「しかし、その幸せは長く続かなかった。」 「そう、娘はあっちの世界に旅立ってしまいました。沢山泣いた。泣いて泣いて、今から娘のためにできることってなんだろう、と考えたんです。」 「それが、世界中の青色をプレゼントすることだったと?」 「何だったかの本で読んだんです。死後の世界には色が無い。ただ無の中で永遠を過ごすだけだって。だから娘の好きだった青空を、届けてやりたかった。」 「その結果、娘さんが生きていたこの世界の空は真っ赤に染まってしまった。それが、娘さんの望みだったとでも?」 「…。」     
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