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「昔から取り調べの決め手はカツ丼と決まっている。紀伊君はこのカツ丼で森山を泣かせ、何としてでも事件を終わらせたかったのさ。
「ホラ、食えよ。冷めないうちにな。」
紀伊さんは警官ドラマでおなじみのセリフを口にする。
「…。」
匂いにそそられてか、しぶしぶ箸をとる森山。
「どうだ、うめえか。」
「…。」
「思い出すだろ、故郷のおふくろさんの味を」
「……。」
「いまごろおふくろさん、ニュース見てどんな顔してるだろうなぁ。」
「………警部さん。私のおふくろはひどい人でした。お腹を減らした子供の私を見ても料理なんて作りやしない。コンビニで買ってこいとお金を渡してくれるだけ。だから私は家庭料理の味も知らないし作り方も知らない。」
紀伊さんの顔が曇る。これは失敗か。
「でもね、私には娘がいたんです。これがよくできた娘でした。お父さんのお手伝いって言って毎日飯をつくってくれまして。妻はあいつを産んで死んじまいました。その分代わりになろうとしたんでしょうね。」
「へぇ…。優しい娘さんだな。」
「まったくです。それで、娘の得意料理がカツ丼だったんですよ。揚げ物は危ないからやめろって言ってるのに。『毎日会社で疲れてるお父さんの精を付けるため』って。わざわざ手間かけて作ってれるんです。」
語りだす森山。これは上手く行ってるんじゃないか。
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