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「あのカツ丼は美味かった。カツと卵に愛情が詰まってました。」
「うんうん。いい娘をもったな。」
「しかし、娘には申し訳ないですが、このカツ丼は娘のカツ丼の上の上のさらに上を行っている。」
うんうん…?と首をかしげる紀伊さん。
「なんといってもこのカツ。ホロホロの衣が豚肉のうまみ成分を逃がすことなく閉じ込めていて、噛んだ瞬間口の中にジュワッと肉汁が広がっていく。」
「おい、おれはお前に奢るためにカツ丼を持ってきたわけじゃねぇ。食ったからには青色の居場所を吐け。」
「それでいてこの黄金色の卵がまたふわふわで優しい甘さ。」ガツガツ
「おいレビューしながら食ってんじゃねぇ食うなら吐け。吐かないなら食うな。おい聞いてるか。いい匂いだな全く。」
「ごはんは料理酒を加えて香り高く炊きあがっている…。」ハフハフ
「わかった。吐く気が無いならもういい。その代わり俺にも一口食わせろ。」
「抜群のハーモニー。幸せだぁ…。」モッキュモッキュ
「おいこら頼むから食わせてくれ。自腹なんだよそれ。俺にも食べる権利あるだろ。」
「……。」ゴックン
「ねえお願い分けて。」
森山が手を止め、皿を差し出す。紀伊さんの表情がパっと明るくなり、前のめりになって飛びついた。
しかし、カメラに映っていたのは空の器。
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