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「ごちそうさま。」
その一言が放たれた時、紀伊さんの全身から力が抜けていき、顔をクシャクシャにして泣き崩れた。
ミズキは思わずモニターから目を背けた。あの紀伊さんが、いつでも頼りになったあの紀伊さんが。犯罪者にむかって首を垂れ、ワンワンと泣きじゃくっている。
「こんなの…。こんなのひどすぎる。」
「その通りだ。」
モニターからではない声に驚き、目をやるとそこには全身が包帯で巻かれた紀伊さんが立っていた。
「紀伊さん、無事だったんですね!」
「ああ、なんとかな。だがしくじっちまった。」
「紀伊さんのせいじゃないです。あんなひどい仕打ちするなんて誰にも想像つきませんよ。私だって食べたい。」
「波鳥よぉ、俺は甘かったんだ。たとえ世紀の大泥棒でも所詮は俺と同じ人間。そう高をくくっていたのかもしれねぇ。だが違った。あれは人間じゃねぇ。人の皮を被った悪魔だ。同じ土俵でやりあえる相手じゃなかった。」
「そんな…。」
「おまけにショックで大熱が出て薬局に行く途中トラックに轢かれちまった。俺が犯罪者一人にここまでやられるとはな。老いってのは怖いよ全く。三途の川を見てきたぜ。」
「三途の川ですか。」
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