始まりの擬人化種の今

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 大丈夫じゃないの、わかっているから。シートベルトを外していて見えた、彼の足元に数枚の羽根が散らばっているのを。  私は目を丸くしている彼の頭を撫でてニコッと微笑むと「ありがとうございます、お疲れ様でした」と、さっさと車を降りる。  鍵を開け家の中に入ったところで彼が追い付き、ペッタンコになったパウチが3つ入ったビニール袋をゴミ箱に突っ込んだ。  家に帰ると、やっと仕事が終わったなぁって感じられる。気が緩んでつい、本音がこぼれる。 「はぁぁぁー、疲れたのじゃあ」 「一瞬でオフの香さんッスね。そんなに疲れているのなら、さっさとシャワーを浴びて歯を磨いて寝てくださいッス。俺は少し――」  年相応の口調。年長者っぽいじゃろう?仕事の時は市長として、普通の人間の、真藤香として立ち居振る舞いと口調に気をつけておる。  が、こうしてスイッチをオフにして、なおかつわしのことを知っておる者の前では本来のわし。  堅苦しいスーツの上着を脱いでネクタイを緩めたわしは、彼の言葉に足を止める。クルッと回れ右をして、そして…… 「嫌じゃ。疲れておるゆえ、わしの体を洗え。先に行っている、着替えを持ってこい」  彼のネクタイをつかみグイッと引き寄せると声を低く、睨む。少しの間を開けて彼が「わかりました」と答えると手を離し、脱衣所へと向かう。  時刻は夜の12時前。彼は言われた通りわしと自分の着替えを手に脱衣所にやってきた。  洗面台に腰かけているわしと目が合うと、口を開くことなくわしのベストのボタンに手をかけ外していく。ベストが終わったらシャツ。  上半身の服を脱がせれば今度は下半身。少しかがんでわしの腰に腕を回した彼は洗面台から降ろすとベルトに手を伸ばす。
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