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来た。静かなあたり、怒ってはいない様子。しかし油断は禁物。開けた瞬間に殴り込まれてはたまらないので、1歩下がってゆっくりドアを開ける。
「はい。……?香さん?………………気のせい、か」
幻聴だったのかもしれない。廊下には香さんはおろか、ドアをノックしたものも何もない。思っていた以上に待つのが楽しみで幻を聞いたか。
キョロキョロしてからドアを閉め、もう寝てしまおうとパソコンをシャットダウン。
寝苦しいので上は脱いで。数日前までは香さんの“巣”にされていたベッドの方を向く。心臓が止まるかと思った。
「か、香さん……?」
ちょこんと、1匹の茶色い狐が座って俺を見上げていたんだ。さっきドアを開けた時か。俺の足元をすり抜けて入ってきたのも、ベッドの上で俺をずっと見つめていたのも全く気付かなかった。
緩やかに尻尾を振るだけで何も言わないし動かない。気配もないのだから、驚きのあまり声が裏返ってしまった。
というより。香さんのこっちの姿は初めて見た。明らかにこの狐は香さんだとわかるのに、初めて見る姿に戸惑いを隠せない。
その姿だとしゃべれないし、とりあえず人間の姿になってもらおうと手を伸ばす。が、スルリと避けられた。
ん?枕の上に座って俺を見つめる香さんに再度手を伸ばす。触れる寸前、後ろに飛び退いて避ける。手を伸ばす、避ける。手を伸ばす、避ける。手を伸ばす、避ける。手を伸ばす、避ける。
何なんだこれは。香さんは俺とヤるために来たんじゃないのか?まるで俺をおちょくるようにベッドの上を逃げ回る香さん。
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