48人が本棚に入れています
本棚に追加
タネ明かしをしてやると緋桜は、まぁまぁ驚いた様子で「なんとなく、そうだと思いました」と顔も向けてくれなかった。
なんじゃ?この、胸の奥がモヤモヤするような違和感は。
いつもの駐車場に車を止めて、腕に触れてみる。けれど緋桜は「仕事ですよ、香さん」とだけ言ってわしの手を下ろさせて車から降りてしまう。
仕事。仕事は仕事。恋人であるのは仕事が終わったあと、プライベートの時間になってから。じゃが、それはあんまりではないか?
冷たい。笑うてもくれなかった。
わしらが休んでおった間は副市長を始め、部下達が大変なことになっていたようじゃな。わしが出勤すると事務員の若い女が泣きついてきた。
過去にわしが気まぐれで抱いてやったことのある女。本人の記憶は消してあるが、やたら触れてくる。副市長が死にかけているだの何だのうるさい。
豊かな胸を強調するように抱き着かれておるわしを見ても、緋桜は素知らぬ顔。無表情で、自分の席に着くとパソコンを起動させメールに目を通していた。
嫉妬くらい、仕事の時でもするのではないのか?それとも仕事だからと、我慢しておるのか?
まるで、恋人になる前のプライベートな緋桜のようじゃ。心をなくす、冷たい赤い瞳。仕事はしっかりこなすが会話が単調で長く続かぬ。
明らかにおかしい。以前のようにわしの仕事にケチをつけてくることも、自分の仕事の腕前を自慢するようにからかってくることはあるのじゃが。
最初のコメントを投稿しよう!