真藤緋桜

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 腹が鳴りそうで鳴らない。最近は“贅沢な食事”もないし、腹が減った。起きる気配のない香さんの頬をつまんでみる。  気を紛らわせるためだったが、フニフニと柔らかい。腹が、鳴った。  俺は小さく溜め息を吐くと香さんの髪をしっかり乾かし、パジャマを着せて寝室へ。ドライヤーの音にも起きないなんて。まさか寝ているフリとか言わないよな?  恐る恐る顔に目を向けてみるが、大丈夫そうだな。あぁ、寝顔は可愛らしいのに。  腕の中で眠る香さんの寝顔を覗き込めば、まつ毛が長い。大人のシュッとした顔立ちに、子供のようなあどけなさも感じる。  とても、俺に服を脱がせろだのフェラをしろだの抱けだの命令していた王様と同一人物だとは思えない。  オンの時はあんなにも好青年なのに、どうしてオフはこんなにも恐ろしいのか。オフも、俺と2人きりの時のオフと、猫屋敷さんなどの擬人化種仲間と一緒にいる時のオフとは違う。  3つの顔を持つ、最初の擬人化種様。全ては、香さんが心から人間を嫌っているから。  原因はきっと、香さんが「主様」と崇める1000年前の男が殺されたことだろう。今でもよく夢に見るらしい。  それほど、香さんにとって「主様」は大切な人だった。1000年経っても忘れられないほど、強く想っていた人。 「……香さん」  そっとベッドに寝かせ、首元まで布団をかぶせる。俺は隣にある俺の部屋のベッドで寝る。要求されない限り、就寝は自分の部屋でと決まっているから。  まぶたにかかっている茶色の前髪を指で避け、その手で頬に触れる。俺も、嫌なら逃げればいいのに。
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