始まりの擬人化種の今

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 狐狸は化ける。化けて人間を惑わせる。人間に化けて、人間のフリをして人間として暮らす。  遠い遠い昔。ある1匹のキツネが人間に化けて大きな屋敷に忍び込んだ。化けたのは屋敷の主。昨日この世を去った。  そして堂々と、主の親族や使用人達の前に登場。 「わたしはしっている。このひとがおまえたちに、けいかくてきにじかんをかけてころされたのを。そして、それはこのひともしっていた」  驚きのあまり失神してしまう者がいた。怒り怒鳴り散らす者がいた。屋敷の主に化けたキツネに尻尾と耳がついているので、誰かが「この化け狐が!」と叫んだ。  胸に手を当て、溜め息を吐いたキツネの瞳が鋭さを増す。憎悪の炎に揺れる瞳。  屋敷の主には貧しい者達のためにと少しずつ貯めていた、莫大な財産があった。10人や20人で分けても一生暮らしに困らないほどの。  その財産目当てに殺されてしまった。早く確実に、バレずに殺した者が全ての財産を手に入れる。なんてくだらない争いが繰り広げられていたのを密かに知っていた主。  主はこのキツネと友達だったのだから。  町でゴロツキに襲われていたのをたまたま、気まぐれで助けてみたキツネ。人間に化ける力を持っているのも、しかも人間によく悪さをすると有名なキツネだと主は知っていた。  それでも「ぜひとも礼がしたい」と屋敷に招きお茶を振る舞った。  以来、キツネは主を訪ねて屋敷の庭に遊びに来るようになった。やがて主が財産のせいで孤独だと知り、使用人達が暗殺の噂をしているのを耳にした。  キツネから話を聞いた主は頭を抱え、キツネにある頼みごとをする。
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