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別に嫌ではない。最初は、愛のない行為に罪悪感があった。けれどそれも時間が経つにつれて薄れて、今ではどうでもいい。
俺も性欲を満たすことができるし。そこそこ給料の良い仕事ができるし、こうして家にも住まわせてもらっている。
俺は女に興味がない。ゲイなのかと問われればそうではなく、恋愛に興味がない。だから、ちょうどいい。
恩返しと称して、ギブアンドテイク。香さんにすべてを支配される生活も悪くない。まぁそれも、香さんの「飽きた、もういらない」の言葉でもろく崩れてしまうんだが。
いずれはやってくるその時まで、俺はこのバケモノに付き合うだけだ。
「なぁ香さん。あなたは俺のこと、どう思っているんですか?敏腕秘書?下僕?それとも、もしかしてもう気付いているんスか?俺が、本当は――っ!!く、うっ……!」
頬を撫でていた手を滑らせ、指で香さんの柔らかな唇に触れたその時。ドクンッ!と大きく心臓が跳ねた。
息苦しくて、胸の奥がズキンッズキンッと痛んでたまらずうずくまる。体の内側から胸を叩かれているような。呼吸が上手くできなくて胸を押さえる。
やばい、出た。これ以上ここにいてはいけない。
「ふざ、けんなよ……っ、俺は……真藤緋桜だ。お前なんか、に、この体は……はぁっ、くぅ……香さんは、渡さない」
寒い。目が回る。早く。ギリッと歯を食いしばり立ち上がると、壁伝いに1歩ずつドアに向かう。
1人になれば大丈夫だ、治まる。一瞬でも気を緩めれば崩れ落ちる体。初めてではない、ある発作。
なんとかドアノブに手をかけると、ベッドで眠る香さんに目を向ける。掠れる声で「おやすみなさい」を告げると、俺は部屋の外の暗がりへと身を投げた。
香、もうすぐ会えるよ。
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