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顔が女っぽいので、メイクをして女ものの着物を着れば。その姿を見た女は女を辞めたくなるほどの、着物が似合う美人な女性に変身するらしい。
好みの女、というか気が向けば特定の女を隣に侍らせているようだが、本命は男。
香さんと同じタイプだな。女を抱くこともあるが、もっぱら男相手に足を開く。ただし、正宗は男を抱くこともある。全くもって自由な男だ。
それでいて恋愛はしない。孤高の一匹狼ならぬ、孤高の一羽猛禽類。俺と同じ猛禽類、イヌワシではない。
さっきの様子にすっかり怯えきって今にも泣きそうな彼女を奥に座らせ、隣に香さん。俺は香さんの後ろに立つ。
「このクソ忙しい時に。いや、忙しいからこそ人手が欲しい。犬でも猫でも牛でも。貴様、ホルスタインの擬人化種か。22か、若いな。被服の専門学校を卒業……」
タカミヤコーポレーションの社長、高宮正宗は俺と同じ23歳。この若さで社長になったのには訳がある。前社長の父親が、病弱で正宗が20歳の誕生日を迎えた時に他界したためだ。
正宗は、社長にならざるを得なかった。突然のことでも、いずれはこうなることだったんだとすんなり受け入れた正宗。
ほとんど自棄で呉服について猛勉強し、必死に仕事に取り組んだ結果、このざまだ。自棄、継続中。
「貴様、着物は着たことがあるのか?」
「あ、えと、ないです。すみません。その……む……む、胸が、きつくて。でも、この国の大切な文化である着物を、もっと色んな人に気軽に着てもらいたいんです。昔ながらの着物も残しつつ、個々に似合った着物を作ったり、流行も取り入れたり。私は着れなくても、誰かのためを思って作りたいんです」
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