猛禽類の野性

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 客人である俺達にはお茶の1つも出ないな。まぁ、こいつに俺達への気配りなんて有り得ないが。  部下への気配りはできる。罵声を浴びせながらも周りにしっかりと目を向け、誰がどのくらい休憩していないのかも把握している。根は、優しい。 「採用は決定だ。俺様はもう仕事に戻るから、貴様らは帰れ。それとも、気が立っている俺様の近くにまだ居座るって言うのか?」 「香さんッ!!」  瞬きの間に、正宗は香さんに手を伸ばしていた。間にあるテーブルに足をかけ、身を乗り出して伸ばされた左手は香さんのネクタイをつかみ、グンッ!と引き寄せる。  ドクンッ!心臓を中心に体全体が大きく脈打ち。俺はとっさに香さんを後ろから覆いかぶさるように抱きかばっていた。  背中から飛び出した茶色の大きな翼で覆い隠し、正宗から守る。背中に激痛が走った。翼をつかまれ、ブチッ!と羽根を毟り取られる嫌な音が聞こえる。  たまらず、「うぐっ」と声が漏れる。その時、腕の中の香さんの体から殺気が立ち上った。 「わしの緋桜から手を離せ、下衆が」 「くっ!相変わらず、すさまじい力だな。そうか、貴様らは恋仲になったんだったか。前はやり返しもしなかったくせに、愛する者が傷つけられては黙っていられない、か」  正宗のうめき声と、ドンッ!と何かがぶつかったような音が響いたのは同時。「ありがとう」と優しい香さんの声が聞こえて、体を起こす。
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