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すると反対側の壁の下に、正宗がうずくまっていた。俺の血で濡れた左手で右肩を押さえて、口には俺の羽根を咥えて。
喰ったのか。俺の羽根を、抉った血肉を。「不味い」と床に吐き捨て、手の甲で口元を拭うとニヤリと笑った。
香さんが放った気の衝撃で飛ばされたか。ゆっくり顔を上げると、獰猛な猛禽類の目が怪しく光った。自分を見下ろす香さんを見つめる。
「あぁ、ますます………………あなたが欲しい。貴様が、クソ鳥がいなければ香さんは俺様の手の中だったのに」
決して油断していたわけではない。俺も香さんも、こいつの本性をよく知っているから一瞬たりとも隙を見せないようにしていた。
なのに襲われたのは、俺が正宗の眼に怯んだから。そして香さんが、正宗に怯えてしまったから。
擬人化種の始祖、カースト1位の香さん。最強の力を持っていながらも香さんはこの世界で最も、正宗を恐れる。恐怖する。
「あの味が忘れられないんだ、香さん。噛みしめ引きちぎった時のあの柔らかさ、飛び散る血の香り。そして、咀嚼し喉の奥に流れたあなたの肉は温かく甘美で…………最高のディナーだ」
「やめろ正宗ぇッ!!」
「2度と忘れることなんかできない、あなたの血肉。あまり好まないが、あなたのなら骨まで旨そうだな」
怪しい光を放つ正宗の眼から目を離せない香さん。抱え込むように右腕を押さえ、ガタガタと震える。顔が真っ青だ。
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