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「ありがとうのう、緋桜。背中が土まみれじゃな」
諦めるしかない。酷く悲しげに目を伏せ、俺も胸が苦しくなってそっと頭を撫でた。すると香さんは逃げるように俺の背後に回って、背中の土を叩き落とす。
あれ、香さん――本体――と目が合わない?助けようとした擬人化種に逃げられて傷ついているだろうから、キスでもして慰めてやろうと思ったのに。
顔を寄せると目を反らす香さんの顔はうつむいて。なぜですか?ついさっきまで嫌というほど目を合わせ、キスもたくさんして、体も心も深く繋がっていたじゃないッスか。
「脱いで、叩けばすぐに落ちるッスよ。え?…………香、さん?」
土まみれのジャケットを脱ごうとして、背中にドスッと重みが。しゃがんだままの俺の背中に、香さんがしがみついている。
小さな声で「すまぬ、少しだけ、このままで……」と紡がれた言葉は、涙に滲んでいた。
「あの子は、うっ、ズズッ……つい最近、擬人化したのじゃ。それで、ズズッ、はぁ…………捨てられ…………さまよっておる……」
あぁ、そうか。彼に逃げられただけでなぜ泣いているんだ?と思ったんだが、そういうことか。香さんは、彼の心と同調した。
彼が顔を上げ香さんの目を見た、目が合ったその一瞬で。香さんは無意識に妖孤の眼を使って彼の心の中に入り込んでしまったんだ。
そして記憶を読み取り、感覚の全てを共有。彼が体験したことを、まるで自分が体験したかのごとく。震える。
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