食うか喰われるか

爆走ワンコＶＳ暴走ニャンコ

　少し遅れて、ビュウッ！と突風が吹いて、本庄さんが尻餅をついた。竜巻レベルの突風が発生するほどのスピードか。

　え？女性といえど、とっさに支えてなんかやらないッスよ。引き上げるなんてこともしません。

　基本、香さん以外は致しません。シオン君なら手を貸しますが。他は、非常事態でやむを得ない場合だけだな。大きな貸しとして、あとで返してもらうさ。

　それにしても今の。まさか噂をすれば影が差す、か。

　出現のたびに怪我人が出る。止まることがなく猛スピードで爆走して決して捕まることがない。車なんかにぶつかって事故を毎回起こすことから、ついた通り名が“事故マニア”の謎の犬。

　俺には見えた。中型犬くらいの細身。白と茶色の毛。垂れ耳と大きくカールした細い尻尾。力強く地を蹴り出す筋肉質な脚と、腹から後ろ脚にかけて大きくくびれた腰。

　間違いない。あれは、走りの王様といわれる犬種、ウィペットだ。

　とんでもなく速いけどな。ウィペットは時速５０キロちょいくらいを走るはずだが。今のはどう見ても、ちょっとしたＦ１レベル。

「追うぞ、緋桜」

　自力で起き上がってすぐに走り出した本庄さんはともかく、香さんは放っておけないんでしょうね。オフになって、真剣な顔で俺の手を引く。

　あの。ジャガーの本庄さんはともかく、俺達が走って追いつけるとは思えないんスけど。

　そう思って逆に手を引いて車に乗り込もうとしたら。本庄さんと“事故マニア”が駆けて行った方で爆音が轟いた。