始まりの擬人化種の今

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「もしもこの先、あの人達が考えを改めずに私を殺めてしまったら。その時は財産ごと、この屋敷を焼き払ってほしい」  と、頬を濡らす。だからキツネは実行した。主の最後の頼みを遂行することこそが最大の恩返しだと。  屋敷のあちらこちらから火の手が上がる。真っ赤な炎が、主の親族や使用人達を取り囲んだ。キツネの明るい緑色の瞳が光を帯び、怪しく光る。 「わたしはおこっている。にんげんはこれほどまでもみにくくおろかなのかと。あるじとのやくそくははたす。しかしそれだけではわたしのいかりはおさまらない。よって、わたしはおまえたちを――」  それが、のちに人間達に“擬人化種”と名付けられるようになった私達の始まり。最初の擬人化種である私の、人間達とのなれそめ。  あれからもう1000年。人間達の世界に溶け込み、めまぐるしく移り変わる時代に流されてきた私は。 「もう、疲れました」  デスクワークを始めて5時間、休憩なし。いい加減に目も背中も痛い。ずっと握っていたペンを机に転がす。するとすぐ近くにあるソファーから声が上がった。 「何言ってんスか、それくらいで音を上げないでください。明日は早朝から知事との対談と接待、市民を代表する会の会長との対談。それから、猫屋敷さんのところに行くんスよね?」 「上のご機嫌をとって下の意見に耳を傾ける。板挟みで辛いです。毎日おんなじことばかりですし、精神がすり減る……」 「なら、市長なんて辞めればいいんス――」
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