擬人化種の在り方

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 昔、擬人化種が増え始めてから一時期パタリとその数を一気に減らした時があった。同胞が次々と死に絶え、泣き叫ぶ。逃げ惑う姿を、もう2度と見とうない。  緋桜はその時のことを知らぬから、そんな風に言えるのじゃ。わしの想いを否定されては、わしも黙ってはおらん。  わしはそのやけに力のあるまなざしに臆することなく、眉根に力を入れ睨み返す。口を開くが、頬にあてられていた手でふさがれた。 「あなたは擬人化種、そしてその始祖であられる。しかし、神様ではない。できないことだって、あるんですよ」  柔らかく微笑む、温かな緋桜の顔。次の瞬間、ふさがれている口元に痛みが走った。優しい微笑みは一瞬で掻き消え、代わりに怒りが現れる。 「いい加減、認めろ」  ゾクゾクッと寒気が走った。冷ややかで、けれど獰猛な猛禽類の眼。怖い。この眼は嫌い、嫌じゃ。やめろ!  ギュウッ!と、ふさいでいる手に力をこめて一睨みした緋桜は、信号の色が変わったのに気づくとわしから離れて前を向く。  何事もなかったかのようにハンドルを握って、発進。急ではなかったのにわしの体はシートに打ちつけられて、一瞬、息が詰まった。  息が詰まったまま、呼吸するのも忘れてシートベルトを握り締めたまま緋桜を見つめる。無表情の、冷たい緋桜。  今、彼は何て言った?わしに言うたのか?このわしに、命令?なぜじゃ?
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