擬人化種の在り方

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「……っ」  声が出ない。「緋桜」と、愛しい彼の名前を呼びたかったのに。声が出てこない、やけに苦しいと思ったら、詰まったまま息をしておらなんだ。  ヒュッ。しゃくるように息を吸って、手が震える。ひたすら前を見つめる彼から「声をかけるな」オーラがにじみ出ていて、やっとまともに呼吸できても開けた口を閉ざす。  わからない。なぜ急にそんなことを言うたのか、わしにはわからんが。とにかく、わしに呆れておるのは確か。  車は見慣れた景色、いつも通勤しておる道に入って。徐々に家に向かう。静かな車内。わしは、緋桜から背を向けるように窓の外に目を向ける。  今は、むやみに声をかけぬ方がいい。今は、彼が言った言葉を思い出す。家に帰りつくまでに、彼の言葉の意味を見つけなければ。  あの言い方なら、ずっと思っていたことなのかもしれんな。思っていたけれどあえて口には出さず、見守っていた。  つまり、わしのことなんてお見通しだと、そういうことか。  わしの考え、想いなど緋桜には手に取るようにわかる。わしが、擬人化種のこととなると盲目になってしまうことも、自己犠牲をいとわずにいるから。  わしのことを心配してくれている。そこまで気負わずとも良いと、そう案じてくれているとうぬぼれても良いのか?  それは嬉しいが。じゃが、こればっかりはゆずれぬ。わしのことを理解しておるのなら、折れて欲しい。
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