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「苦手というか。今まで飲んだことがないので、怖いというか……」
「はっ?怖い、じゃと?」
思わず、声が裏返った。手に持っているワインのボトルを落としそうになって、慌てて持ち直す。そんな、無表情でシレッと言うことではないじゃろうが。
でもそういえば、23歳の緋桜はわしと出会ってからずっと一緒に毎日を過ごしてきた。1度も、酒を飲んでいる姿を見たことはなかったが。
わしと出会う前にも飲んだことがなかったのか。じゃが。だからって「怖い」って!?
「自分が酒に強いのか弱いのか。酔っぱらってしまったらどうなるのか。もしも記憶を飛ばしている間に周りに迷惑をかけてしまったらと、そう思うと怖くて手を付けられませんでした」
可愛い新成人か。と突っ込みたくなるのをグッと堪える。緋桜はこれで本気じゃ。
飲もうと思えばいつでも飲めた。しかしそうしなかったのはきっと、いつもそばにわしがおったから。もしも暴力を振るうタイプなら、真っ先に餌食になるのはわしじゃから。
最愛の恋人であるわしを傷つけたくない、と緋桜は呟いてワインボトルから顔を反らせる。
何とも可愛らしい、愛しい緋桜。バツが悪そうにテーブルの上のグラスを自分から遠ざけて「すみません」と小さく言葉を紡ぐ。
「そうか、ならよかった。心配するでない。このわしが責任を持って、緋桜の初めてを見届けてやる。さぁ飲め」
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