ワインの色味香りを上回るほどの

4/21
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/395ページ
「苦手というか。今まで飲んだことがないので、怖いというか……」 「はっ?怖い、じゃと?」  思わず、声が裏返った。手に持っているワインのボトルを落としそうになって、慌てて持ち直す。そんな、無表情でシレッと言うことではないじゃろうが。  でもそういえば、23歳の緋桜はわしと出会ってからずっと一緒に毎日を過ごしてきた。1度も、酒を飲んでいる姿を見たことはなかったが。  わしと出会う前にも飲んだことがなかったのか。じゃが。だからって「怖い」って!? 「自分が酒に強いのか弱いのか。酔っぱらってしまったらどうなるのか。もしも記憶を飛ばしている間に周りに迷惑をかけてしまったらと、そう思うと怖くて手を付けられませんでした」  可愛い新成人か。と突っ込みたくなるのをグッと堪える。緋桜はこれで本気じゃ。  飲もうと思えばいつでも飲めた。しかしそうしなかったのはきっと、いつもそばにわしがおったから。もしも暴力を振るうタイプなら、真っ先に餌食になるのはわしじゃから。  最愛の恋人であるわしを傷つけたくない、と緋桜は呟いてワインボトルから顔を反らせる。  何とも可愛らしい、愛しい緋桜。バツが悪そうにテーブルの上のグラスを自分から遠ざけて「すみません」と小さく言葉を紡ぐ。 「そうか、ならよかった。心配するでない。このわしが責任を持って、緋桜の初めてを見届けてやる。さぁ飲め」
/395ページ

最初のコメントを投稿しよう!