ワインの色味香りを上回るほどの

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 わからぬ。今、緋桜が何を考えておるのかが全く分からぬ。わしはただ、初めての飲酒を祝って楽しく過ごしたかっただけじゃのに。  最近、緋桜とはこういうことが多くなったような気がする。気にし過ぎじゃろうか?しかし、明らかに緋桜はわしから遠ざかったり、かと思えば急に近づいてきて甘えてくるのを繰り返しておる。  あれか、アメとムチ?いやいや、どんな悪ふざけ。  何かあったのか?聞こうにも、遠ざかっている時は避けられる。近づいて甘えてくる時は、流されてしまって。どちらでも、話を聞くことができぬ。  赤い隻眼に、今にも泣き出してしまいそうな情けないわしの顔が映っておる。 「えっ?あぁ。…………すみません、嘘ッス。驚きのあまり味も風味も何もわからなくて。つい、イジワルをしたくなりました。でも、まさか…………泣いてしまうとは思わなくて」  赤い隻眼の中のわしの、頬が濡れた。じんわり目が熱くなって、苦しくて、滝。 「えぇっ!?あぁっ、本当にすみません!香さんのことを嫌いになってません、愛しています。だから、もう泣かないでください」 「ううっ、はうぅ……。ん、うー。グズッ。うっ、や、じゃ。も……もう、知らぬ。嘘を、真にしてやる。ズズッ。おぬしとはもう、飲まぬっ」  涙腺崩壊。ダパーッ!と、まさしく滝のごとく涙を流すわし。ビックリ仰天の緋桜は慌てふためき、いつもの冷静さを欠いてとりあえずわしを抱きしめた。
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