ワインの色味香りを上回るほどの

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 まったくもって微笑ましい。分身ながら、そんなことを思いながら帰宅。それが、本体のわしが緋桜を連れての難しい会議中の出来事。 「緋桜にはわしの思いなど、全っ然、わかっておらんのじゃっ!」 「実はわかってるんスよ!?香さんが俺に内緒で分身を使ってワインを買いに行って、遭遇したドクトルに襲われそうになって逃げて。逃げた先で正宗を見つけて迂回して、そのあとに痴話喧嘩中の猫屋敷さんとシオン君の横を微笑みながら通り過ぎ――」 「な、なぜわかったっ!!?」  き、気持ち悪い。正直、気持ち悪いほどに言い当ててしまった緋桜にドン引き。まるでその場におったような口ぶりじゃが。  ある意味の恐怖に叫んでやったら。緋桜は、フッと不敵に笑った。 「俺の親切な友達が、教えてくれたんスよ」  あ、嘘じゃな。親切な友達とはおそらく、野生の鳥類。カラスかトンビか、スズメ?じゃが教えてくれたではなく、わしの様子がいつもと違うことに気付いて分身を発見。尾行させたな。 「言い返させてもらうなら。俺が初めての酒に対して恐怖を抱いていたのは事実ッス。けれどあれは、さすがに俺でも怒りたくもなるッス」 「くっ。ならば、どちらにも落ち度はあることじゃ。こうしよう、同時に謝る。それでこの喧嘩はしまいじゃ。ゆくぞ、せーのっ」 「申し訳ありま……って!香さんも謝ってくださいよ、同時って言ったじゃないッスか!?」
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