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「ただいま戻りました。どれくらい進んだんスか?って、全く変わってない。まさか、この短時間で寝てたんじゃないんスか?」
「ね、寝てなんかないですよ!訂正書類を1枚直しました!」
「たった1枚で威張らないでください。あぁもう、こんな調子なら今日の分が今日中には終わらないッスよ。…………仕方ありません、今日はここで切り上げます」
戻ってきた彼が、ノックもせずドアを開けて絶句。いやいや、こっちの方が絶句だよ。ノックくらい秘書ならしなさい。毎度のことだけど。
慌ててペンを執る私の手から書類と、つかんだばかりのペンを奪う。そして彼は私に黒いロングコートとカバンを持たせると強く手を引っ張った。
「待ってください。切り上げるって、残りはどうするんですか?明日だって時間がないのに……」
「残りは明日、あなたが猫屋敷さんのところに行っている間に俺が処理しておきます。俺ならこれくらい、5分もあればできるッスから」
ご、5分!?君にそれほど高い書類処理能力が備わっていたとは。いや、ならもう少し私の負担を軽くしてほしいところなんだけど。
なんて抗議する間もなく手を引かれ部屋の外へ。そこでやっと手を離してもらい、コートを羽織る。
時刻は夜の9時半過ぎ。当然、あの部屋にこもりっぱなしだったから晩御飯は食べていない。「グゥキュルルルル」とお腹が鳴ってしまうのは時間の問題だった。
「はいこれ、香さんの分ッス。今から炭水化物は体に良くない、太る原因になりますので」
そう言って小さいビニール袋から取り出し私の手に持たせたのは飲む栄養ゼリー、ウインダーインゼリー。彼の主食。彼はほとんど毎日、これだけで過ごしている。
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