ミルフロト王国

63/79
前へ
/760ページ
次へ
グレイフェイシアの、まっすぐさが愛おしかった。 「いいえ。ただ、王には、気付かれないようにしてください」 「分かったわ!こっそりね!」 ラルは、グレイフェイシアの額に口付けて、身を起こした。 「それでは、俺は行きます。また、明日(あす)」 グレイフェイシアは、赤くなって額に手をやった。 自分がしたのとは違う、口付けだと思った。 ラルを見送って、胸の鼓動が高いことに気付く。 とても幼い、ときめき。 結婚するのだという現実とは、かけ離れていた。 自分は、恋などではなく、ただラルを手に入れたかっただけなのだと知った。 子供のような独占欲。 アルシュファイド王国で、ラルと向き合うことになって、恋が始まったのだ。 まだ自分は、異能開発事業同様、そちらのことでも、入口に立ったばかりなのだ。 どうなるのだろう。 こんな小さな、ときめきにさえ、翻弄されているのに、このままラルのことで心が満たされたら、どうすればよいのか、判らなくなる。 動揺したけれど、心はとても温かくて、幸せだった。 夕闇が、窓の外を覆っていたけれど、その温かさは、部屋に(とも)された明かり同様、グレイフェイシアの心を照らした。 とても、明るく。
/760ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加