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自分の、未知のものへの恐れよりも、今はラルに何か、心の支えが必要なのだと思った。
「私の居場所は判るでしょう?」
アルシュファイド王国で求めた、位置確認の首飾りは、いつも身に付けている。
「…ええ」
溜め息をついてラルが答えた。
自分でも、分かっている。
こんな風に弱っているところを、見せるべきではない。
一緒になるために、歩き出しているのだから。
「だからきっと、私は心強いのだと思うわ。ラルにも、この気持ちが、分けられたらいいのに」
ラルは愛おしくて、グレイフェイシアの背を撫でた。
手のひらの下で、その体が強張るのが判った。
他意はなかったはずだが、急激に求める心が膨れ上がるのを感じた。
グレイフェイシアの体をなぞり、その両頬に手を添えた。
口付けてもいいだろうかと葛藤する。
そこまでしたら、自分を止められない気がした。
「…ラル?」
ラルを案じる声。
その声を、汚してはならないと感じた。
汚すというのとは、少し違うけれど。
子供の純粋な気遣いのような、澄んだ声が、ラルの荒々しい心を宥めた。
「…すみません。もう大丈夫」
視線を伏せてそう言うラルの額に、グレイフェイシアは背伸びして口付けた。
母が子にする仕草の、その真似をする子供のように、純粋な思いやり。
幼い頃、触れた記憶が思い出される。
「…俺は子供ではありませんよ」
「でも、まるで迷子のようだわ」
1人でラルを育てていた、母を亡くしたときのような、ひとりぼっちでさまよう子。
「ラル。会うことを禁じられたわけではないのですもの。互いの居場所も判るのだし、いつでも会いに来ていいの。会いましょう?」
「そうですね…」
力なく呟くラルに、何かしてやりたかったが、思い付かない。
両手を取って、強く握った。
ラルの目を見上げて、言う。
「ラル。私にどうして欲しい?」
ラルは、グレイフェイシアの頬に掛かる金髪を、横に流して、耳に触れた。
「いつも、目に見えるところにいて欲しい」
「では、伝達を送るわ。今、何してるって、伝える。探して、見付けて。あなたの目に見えるところに、書くから」
「王城内に土はありませんよ」
「土の者は、すべての形あるものを操るわ。城の壁にだって、書いてみせる。原状回復すればいいのだから、問題ないわ」
「フェイ」
「なあに?また突拍子もないこと言ってるって言う気?」
ラルは笑った。
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