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まず、異能開発事業の大まかな形を描く。
その一例として、伝達を円滑に運ぶ、通信事業についてまとめ上げる。
細かな点を書き出して、顔を上げると、ちょうどミスリーが、時計を見たところだった。
「王女様、そろそろお部屋にお戻りになられてはいかがでしょう」
「そうね、今日はここまでにするわ」
「私は少し残って、書類を片付けます。どうぞ、ごゆっくりお休みください」
「ありがとう。お願いね」
そうして部屋を出ると、隣室の扉が開いて、幾人かが出るなかに、ラルがいた。
隣室にいたのは知っていたが、顔を見ると、やはり嬉しい。
「ラル。今、仕事が終わったの?」
「ええ。部屋まで送ります」
同じ方向に歩き出しながら、グレイフェイシアは、ラルの顔を覗き込んだ。
「さっき送った伝達、ちゃんと読めた?」
言うと、ラルは笑って、少し驚きました、と言った。
「机にまで書けるんですね」
「繋がっているもの。邪魔にならなかった?」
「ええ。大きな机の端でしたし、ちょうど正面だったから、見逃しませんでしたよ」
「よかった。今度から、机にいるときは、同じ場所に書くわね。ところで、あの部屋の名は、なんと言うの?」
「瑠璃の間です。国王陛下より賜りました」
「この辺りの部屋には、名があるのね」
「いいえ、どの部屋にも名があります。グレイフェイシア様の居室の名は、桜の間でしょう」
「ええ、そうだけれど。意味のある部屋だから、名があるのかと思っていたわ」
「侍女の控え室にも、洗濯室にも名があります。頭巾の間、盥の間というように」
「統一感はないようだわ。でも、用途には合っているのかしら?お父様のお部屋は…お仕事をなさっている部屋は、なんと言うの?」
「あちらは金の間です。金の間を中心に、石の名の部屋が多いですね。どのように決められているのかは判りません。扉にそれぞれの名を示す品や、彫り物がありますから、城を造るときに決められたのだとは思いますが」
そんな話をしながら、グレイフェイシアの部屋に入ると、茶を用意させて、揃って寛いだ。
アルシュファイド王国に行く前とは、大きく変わってしまったけれど、とても自然な、ふたりの時間だった。
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