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ミーチェの家は農家で、広い家を持っていた。
農地も広く、近くの村に住む者を雇って、広い畑を管理しているということだった。
ミーチェの家の敷地内には井戸があり、地下から水を汲んでいた。
この水は、飲むためと、家事を行うための水で、畑には使われていない。
畑の水は、必要なとき、国から水の者を雇うことになっているのだそうだ。
ミーチェの家から、近くの村に向かうと、その中央には、共同で使う井戸があった。
この村の者の多くは、雇われて周辺の農家の手伝いをして、生計を立てているのだということだった。
その生活は、あまり楽なものではなく、男の子供たちは、兵となる者が多い。
女の子供たちは、布を織る技を覚え、行商から、バラゴーラと言う植物から採れる糸を買って布を織り、シャリーナの壁のなかの市まで、売りに行っている。
家は多く長女が継ぎ、それ以外の新たな家族は、空き家を利用したり、村の外れに、新たに家を建てる。
軍に入った男は、独身を通す者が多いが、村に戻ってきて、新たな家族のために、家を建てる者もいる。
ほかに、村に新たに入る者には、シャリーナの壁のなかで育ち、新たな家族を持つときに、壁のなかで家を手に入れられなかったという事情がある。
「なんと言うか、大きな流れがあるのね。その日その日を生きるだけではなく、家族が繋がれていくのね。今の状態は、よいと言えるのかしら…」
城に戻る馬車のなかで、グレイフェイシアがそう言うと、ボーリンが応えた。
「飢えることがないということは、まず、よいことだと思います。王女様は、この先、民がどうなることを、お望みなのですか?」
「民が、どうなるか…?」
考えてみたが、判らない。
ただ、ふと、アルシュファイド王国で見た、民の笑顔を思い出す。
村人たちがグレイフェイシアたちに向けた、余所者への警戒心はなく、安心しきった、楽しそうな顔。
「判らないけれど…表情が違うの。アルシュファイド国の者たちとは…」
「そんなにも、アルシュファイド国は、よいものでしたか?」
「よいもの…、ええ、そうね。あれは、よい環境、と言うのかしら。毎日の生活を、懸命になって保とうとする姿が、悪いと言うのではないの。ただ、もっと、笑顔になれる瞬間があっても、いいと思うの」
「笑顔になれる瞬間…」
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