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「私に何ができるのか、そもそも何をすればいいのか、判らないけれど…。異能開発事業を進めることで、何か、見えてきたらいい。異能開発事業を成功させることは、終わりではないのね。始まりなのだわ。私は、王女として、きっともっと何か、できることがあるのだわ」
その瞳には、迷うような、悩むような、掴むべきものがない、不確かな色しかなかったけれど、グレイフェイシアは、前を見据えていた。
ボーリンは、それを見ながら、自分はこの先、この王女と、どのように歩んでいくのだろうかと思った。
そんな思いを乗せながら、馬車は城に戻り、ミーチェとシーラと別れて、グレイフェイシアの執務室へと入ると、ジェファーが来ていた。
ちょうど15時で、先に茶を飲み、少ししてから、昨日の続きを聞いた。
「…南の国境沿いの領地には、土の力を持つ国境騎士が派遣されています。ミルフロト国全体から、土の力の強い者を集め、国境騎士として任命し、絶縁結界維持に充てています」
北と西の国境を接する国、ケイマストラ王国とは、長年、友好関係にあると、昨日聞いた。
チタ共和国との関係は希薄だが、軍を持たない国なので、警戒する理由がない。
「リクト王国は好戦的と聞いたけれど、ザクォーネ王国は、もう安全なのではないの?」
ミルフロト王国が南の国境を接するのは、東側の大部分がリクト王国、西側が少し、ザクォーネ王国だ。
ザクォーネ王国とは、なんの争い事も、昔からの悪感情の種もないが、あちらの土地が戦場となることが多かったため、絶縁結界を敷いてあるのだ。
「安全ではあります。ですが、こちらが結界を一部開いても、あちらの結界が開かない限り、直接の遣り取りはできません」
「そう…何か、残念な気がするわ」
「はい。実は、アルシュファイド国を通して、シャリーナの水路造成を、ザクォーネ国の技師が請け負ってくれるということなのです」
グレイフェイシアは、目を大きくした。
「まあ、それはきっと、よいことね!」
「そのように心得て、話を進めております。東側の国交は、大きく変わるのかもしれません」
グレイフェイシアは、瞳を輝かせて、地図を覗き込んだ。
ミルフロト王国の置かれる状況が変わる。
自分はそのなかで、どのような役割を果たすことになるのだろうか。
見当も付かなかったが、周りをよく見渡して、できることを探そうと思った。
グレイフェイシアはまだ、歩き始めたばかりの王女だったけれど。
その足は、しっかりと地を捉え、ミルフロト王国に立っていた。
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