王の執務室

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王の執務室

       ―ボルファルカルトル国―    ボルファルカルトル国は特別な国で、国王と呼ばれる存在がありながら、主権は国民にある。 そんな国の中央に建つ王宮の一角にある国王執務室で、ジョージイは、国王ロージョーン・ナパムの次の言葉を待っていた。 「…さて、ジョージイ。そんなわけだから、しばらくお前には、アルシュファイド国やカザフィス国だけでなく、ほかの国にも赴いて、ボルファルカルトル王家の務めを果たしてもらいたい」 ロージョーンの言葉に、ジョージイは、浅い息を吐きながら、承知しましたと言った。 先日、ジョージイの義姉(ぎし)…兄フレイド・ナパムの妻ナリシア・ナパムの懐妊が判明したため、大事を取って、兄夫妻は、ボルファルカルトル王家の公務となっている、各国との親善のため行っていた訪問を、控えることになった。 その代わりに、ジョージイが各国を回るのだ。 ナリシアの容体が安定すれば、フレイドは、単身で各国を回るが、それまでジョージイ1人で、あちらこちらに顔を出し、関係を保たなければならない。 しばらく、ユラ-カグナに会えないなと、がっかりする。 「ケイマストラ国のカタリナ王女とナリシアは、特に懇意にしているから、一度顔を出して、ナリシアの様子を直接伝えるのだ。そのほかは、特にないな。頼んだぞ」 「はい。ですが通り道ですから、少しはアルシュファイド国に寄ってもいいでしょう?」 「構わないが、帰りにしなさい。また勝手に滞在期間を延ばして、あとの予定を短くされては困る」 ジョージイは、また浅い息を吐きながら答えた。 「承知しました。父上は、カザフィス国に行くのでしたか」 ロージョーンは、嬉しそうに言った。 「ああ、楽しみだ!土の川とは、どのようなものだろうな!」 生き生きとした様子に、ジョージイは、仕方ないなと、笑う。 いつも笑みを含んだ様子の陽気な父だが、カザフィス行きの楽しみは、格別のようだった。 「…世界が大きく変わりましたね。互いに関わり合っていく形に」 ジョージイがそう言うと、ロージョーンは(ひじ)を立てて、両手を組んだ。 「そうだな。この動き、よい方向に進めばよいが」 「何か懸念でも?」 「関わり合えば、都合のよい面がある一方で、悪い面もあるだろう。それに、複数の国と付き合えば、利害は複雑に絡み合う。間に入っているアルシュファイド国は、難しい立場にあると言える」
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