王の執務室

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       ―アルシュファイド王国―    アルシュファイド王国に住む多くの者が休日の今日も、アークは、書類仕事に精を出していた。 国内外の動きは順調で、利益回収まで時間がかかることを除けば、不安な要素はない。 (もっと)も、それこそが問題なのだと、財務省の者は口を揃えるのだけれど。 今月のうちに、機警隊を国外に派遣して、視察をさせる予定だ。 1月は何事もなく、2月になったら、ボルファルカルトル国に向かう。 2月は、応用修練場も完成する予定なので、楽しみだ。 そのほかにあることと言えば、年末に、騎士隊内交流戦や、シャスティマ連邦海軍や、メノウ国海軍との交流戦が行われることになっている。 今年は、他国との新たな関わりができたが、来年はどんな年になるだろうか。 そんなことを考えながら、書類を処理していると、外から謁見希望者の入室を求める、扉番の声がした。 その者の名を聞いて、アークは瞳を鋭くする。 「通しなさい!」 応じると、扉が(ひら)いて、1人の男が入ってきた。 異国に住み、そちらの情報を流す、いわゆる間諜の任にある者で、普段の()り取りは、伝達のみだ。 このように訪ねて来なくてもいいように、万全の体制を敷いているはずだった。 「何があったの」 男が口を開く前に尋ねる。 男は、床に頭を付けて伏し、言った。 「役目をなげうってきたこと、いかなる罰も受けます。ですが政王陛下に、なんとしてもお助けいただきたく、醜い顔を晒しに参りました」 アークは片眉を上げた。 「立ちなさい。何があったのか、順を追って説明して」 「は…、」 男は、よたよたと立ち上がり、顔を伏せながら話した。 男はリクト国に放たれた間諜の1人で、もう1人の男とは、連絡は取っていないまでも、常に互いに気に掛けていた。 その男は、リクト国の娘と恋仲になり、やがて伉儷(こうれい)となり、男の子が生まれた。 しばらく何事もなく暮らしていたが、あるとき、その子が、預けていた近所の娘とともに、消えてしまった。 心当たりをすべて探して、ようやく得た手掛かりによれば、娘は、その子を連れて、ある洞窟に入ったということだった。 その洞窟は、神域として立ち入りを禁じられており、見張りがいるので、近付けもしない。
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