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桜もすっかり葉桜となり、緑の若々しい木々が目に眩しい昼下がり。
私は出先からそのまま直帰という形でいつもの帰宅時間よりも3時間も早く家路に着こうとしていた。
「はぁー……疲れたぁ」
小さな出版会社に就職してから3年。仕事にもそれなりに慣れたごくごく普通の勤め人。
これといって目立つ事も大きな事件事故にも遭わない人生を送って来た私、河合月子、25歳。
現在彼氏なし。いない歴……ナイショ。
会社とひとり暮らしのアパートを往復するだけの日々に寂しさを覚える春の日の頃だった。
自宅への帰路途中にある公園には丁度小学校から帰って来たらしき子ども達が歓声を上げながら遊んでいる。
このまま家に帰るのが勿体ない気がして休憩とばかりに途中のコンビニで買って来た夕食用のお弁当と缶コーヒーのうち缶コーヒーを取り出してベンチに座って飲んだ。
平日のこんな時間に公園にいることなんて滅多にないから見つめる風景は新鮮だ。
──その時
「ミィ~」
何か聞えた気がして辺りを見回し耳をそばだてる。
「ミィ」
「……」
猫の鳴き声だ。
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