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──ある日突然降って湧いた結婚話
これはいつまで経っても叶わぬ恋を断ち切れぬ不甲斐無い私への天からの情けか叱咤か哀れみか、それとも……
卵を拾った日から数年後。
姫様そっくりに変化した彼女に『キヨ』と名前をつけて妻として娶った。
日々繰り返し人としての教養や情報を与え育てつつ、愛情をもって接しているうちに今ではすっかり人のそれとなんの違いもなくなっていた。
そんな平穏な日々の中、更なる幸福が私には訪れていた。
「キヨ、体は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。だけど……ねぇ、ティス。あなたはいつまでわたしに敬語を使うのですか?」
「えっ……そ、それは」
「もうすぐあなたは父親になります。子どもの前でもわたしに敬語を使うのですか?」
「ははっ……そ、そう、ですね」
キヨは私の子どもを身ごもっていた。
果たして子どもは卵で産まれるのか? という私の心配はディガの『そんな訳ないだろう』という辛辣なひと言で一蹴された。
私は未だに異種族の生態をよく理解出来ていないようだ。
「ティスはもっと偉そうにしてて下さい。家長なんですから」
「……キヨ」
姫様そっくりの顔のキヨに対して数年経った今でも敬語使いが抜けられなかった。
「そうだな…。私はキヨと子どもを護っていかねばならないのだからな」
「はい、そうですよ」
だがキヨは姫様ではない。
愛おしく慈しんで私が育てた来た理想の女性──妻なのだから。
(やはりこれはどうあってもご褒美……なんだろうな)
昔考えたことがあったこの出来事は天からの私へのご褒美だと確信したのだった。
魔法使いの弟子の結婚(終)
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