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僕はアトラティス国でも珍しい職業とされる先夜見一族の長の息子として生まれた。
先夜見とはその字の如く、未来を見通す力。
ただその能力は夜にしか発動しない、ごく近しい未来しか見通せないということから王国に仕えるまでの位にはなかった。
そんな先夜見一族の念願はいつか一族の中からアトラティス国、ひいては国王に仕えるほどの能力を持った人間を排出することにあった。
そんな中での僕の誕生は一族の期待を大きく裏切る出来事だったのだ。
(僕は一族の恥)
ずっとそう思って生きて来た。
針の筵のような環境に居場所を失くしていた僕は16の歳に一族から離れた。
自分がどう生きるべきか、ひとりで考え、見つけることに奔走するのだった。
放浪の旅には様々な出来事が降りかかった。
いい事も悪い事も半々に僕に降り注いだ。
そんな中で自分の目指すべき道を提示してくれたひとつの出会いがあった。
「人の家の軒先で何をしている」
「! す、すみません。あの、突然雨に降られて……その、雨宿りを……」
「……」
「本当に……すみません」
雨宿りをしていた家の住民に咎められ思わず萎縮してしまったが
「中に入るがいい。この雨はしばらく止まぬ」
「え……でも」
「いいから入れ。その前におまえ、名前は?」
「……ディガ、といいます」
「ディガ……か」
彼女との出会いから僕の人生は大きく変わって行くことになるのだった──。
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