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その娼館は大々的に看板が掲げられている訳ではなく、一見すると普通の宿屋のように見えた。
だけど一歩中に足を踏み入れれば娼館独特の雰囲気を持っておりそういった店であることに間違いなかった。
「まぁ、ようこそおいで下さいました、ジャンダ様」
「ようこそ来ました~」
「ふふっ、随分お待たせしてしまいましたね。──あら、其方の方は」
「あ、こいつはディガといって友だちの魔法使いです」
「友だちじゃない」
僕の反論など意に介せずジャンダは養成所での様子や成績をベラベラと女主人に語っていた。
「まぁ、それは素晴らしい魔法使いであらせられるのですね」
「……」
物言いは柔らか。だけど僕を品定めするような視線は決して柔和なものではなかった。
(なるほど……この女主人、只者じゃなさそうだ)
ある種の気配を感じ、僕はただジッとジャンダと主人のやり取りを黙って見聞きしていた。
「ディガ様のことはよく解りました。では一か月後のご予約をディガ様でお取りしておきましょう」
「まぁ、無駄になるかも知れないけどね」
(無駄? それに一か月後というのはなんだ)
「ではジャンダ様、早速お部屋にご案内させますね。──チュリン」
「……はい」
「ジャンダ様を綺羅星の間にご案内して」
「……かしこまりました」
何処からかやって来た下働き風の女中が案内を命じられた。
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