493人が本棚に入れています
本棚に追加
「きっと大丈夫ですわ、ディガ様」
「ん?」
娼館からの帰り道、手を繋いで帰る道すがらチュリンが言った。
「きっとディガ様は王子様の魔法使いになれます」
「え?」
「なんとなくですけどそう思います、私」
「……」
はにかむようににっこりと笑うチュリンの表情を見つめているとざわついていた心の中が徐々に静まって来た。
「そうだね。まだ先は長いし、これからの人生どうなるか分からないしね」
「そうですよ。もしかしたらこの子が女の子で、その王子様と恋仲になったりするかも知れませんよ?」
「!」
『訊いているのか、ディガ!』
『なんですか、薮から棒に』
『身重なのに遠乗りに行くといっているぞ! あいつは馬鹿なのか?!』
『わたしの娘を馬鹿呼ばわりとは──王でなかったら瞬殺ものですよ』
『お、おまえの娘溺愛ぶりも俺のことをいえないぞ! あーもう! あんな女を一瞬でも愛おしいなどと思った俺が馬鹿みたいだ!』
『それは訊き捨てなりませんね──王よ』
『! う……嘘に決まっている。戯言だ』
(……なんだ?)
今、一瞬、何かの映像と……会話が──……
「ディガ様?」
「! あぁ、何でもない」
(……)
もうすっかり消え失せてしまったが一体なんだったのだろう?
僕の中に僅かに残っている先夜見一族の力が何か予言めいたものを見せたのだろうか?
(しかし何を見たのかはもう忘れてしまった)
酷く大変な出来事があった後のとても幸せなひと時の会話のようにも思えたのだが。
それはいつの間にか記憶の中に埋もれてしまうほどの一瞬の出来事だった──。
最初のコメントを投稿しよう!