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静寂な部屋の中に流れる音は時計の秒針だけ。
私は今、自分のことを『猫』だと言い張る男と向かい合って座っていた。
「……」
「……」
お互い何を喋ったらいいのか──というより、男は私からの言葉を待っているのだろうと思う。
男は先刻、喋り過ぎるほど喋ったのでもはや自分から切り出す言葉が見つからないのだろう。
(……ど、どうしよう)
この男は猫だというけれど、そんな話を信じる人がいるか?!
猫が人間になるわけがない。そんな物語のような話や不思議な事なんてこの現実世界で起こる筈なんてないのだ。
「……見た、よね」
「え」
突然男が口火を切った。
「み、見たって……何を」
「俺の……アソコ」
「……」
「それ見て『雄だ』っていったよね」
「?!!」
(な、何ぃぃぃぃ!!)
「そ、そ、それって……」
「一応、俺が猫だったっていう証拠のつもり」
「~~~」
正直開いた口が塞がらないとはこのことで、あまりにもビックリして頭の中は真っ白だ。
「信じてくれる?」
「……」
信じるも何も……そんな事実を突きつけられたからには信じるしかこの状況に合点が行かなかった。
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