07-こだわりの女

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07-こだわりの女

 ああよかった。もう少しで危うく、私「みそ汁にニンジン入れたから別れた女」になるところだった。  ニンジンが嫌いじゃないことはちゃんと事前に確認してたんだよ。レストランでハンバーグと一緒に出てきたニンジングラッセ、おいしそうに食べてたし。居酒屋でも野菜スティックのニンジン、ぱりぱり食べてたしさ。  そしたら普通、ニンジンはノーマークになるじゃん? わざわざ避けようとも思わないし、嫌いかどうか改めて聞く必要もないじゃん? だから初めての手料理ってことでうちで作ったごはん、みそ汁の具は玉ねぎとニンジンにしたわけ。  もちろん、ただのニンジンじゃないよ? 無農薬有機栽培の、葉つき泥つきのいいやつ。臭みがなくて生でも煮ても甘くておいしくて、ほんとおすすめなんだから。わざわざ直前に届くように取り寄せてさ、何日も前から準備してたのに。  なのにさ、お椀の中見て「うぇ」だって。一口も食べずにだよ!? 「ニンジンのみそ汁とか初めて見た、ありえなくない?」だって。ありえないのはそっちでしょ!って話じゃん。それで大喧嘩で、以来一度も会ってないわけ。  でさ。考えたんだけどさ。  私が何に腹立ったのかって、よくよく考えるとニンジンのみそ汁残されたこと、じゃないわけよ。  みそ汁の具がたとえジャガイモでもトマトでもピーマンでも、海苔でもシソでもエビでもドジョウでもタニシでも、同じ反応されたら同じく腹立ったはずなのよね。  っていうか、みそ汁じゃなくても同じ。もっと言えば、料理じゃなくても。  つまりさ、私が良かれと思って用意したものを、試しもせず謝りもせずに一方的に否定したことが許せなかったわけよ。人の好意を平気で踏みにじれるってことが信じがたいし、一緒にいたくないと思った原因なのね。  だから、別れた理由は「好意を平気で踏みにじる男だから」。ね、違うでしょ。みそ汁にニンジン入れたから別れたわけじゃないからね。そこ結構大事だから。テストに出るからこれ。  え? 関係修復しないのかって? なんでよ、私があんな、ニンジンのみそ汁否定するような男と??
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