08-タケコプター

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 誰もいない青い空、を懐かしむ声が多いのは事実だ。子供のころを思い返せば確かに、空というのは一面に青く、都会であってもときおり飛行機が横切るくらいだった。手付かずだった突き抜けるような深い空間は今、朝晩の通勤通学のために大量の飛行者で埋め尽くされている。  いや、それはいい。そんなことはどうだっていい。俺は、人類は、このわずなか利便性のために、美しく尊いものを失ってしまったのだ。  風に揺れるスカート。裾を押さえて慌てる女性のしぐさ。なんということだ! タケコプターは、この儚く素晴らしいものを俺たちから奪っていったのだ。  一時期はズボン全盛になったが、今ではスカートで飛行する女性も大勢いる。だが、それは本物のスカートじゃない。スカート丈の内側にレギンスやショートパンツが一体型となった、いわばヒラヒラ付きズボンなのだ。こんなもの、スカートではない。なんの恥じらいもなく内側を見せびらかすことのできるボトムスのどこがスカートといえるのか。下着がじかに外気と触れ合ってこそ、初めてスカートはスカートと呼べるのだ。  失われた空に、失われたスカートがはためく光景。こんなものが、先人の望んだ未来だったのか。ため息をつくと、タケコプターを貼ったままの身体が、吐息の風圧でわずかに浮かび上がった。
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