03-坊主

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 見やれば、存外近くで坊主頭の少年が3人ほど、楽しそうに腹を抱えている。輪の中心では、小さな肉片がまだ痙攣していた。  私はふと思い立ち、子どもたちに微笑みかけた。怒られるかと思ったらしく、少年たちは一様に、こわばった表情をはりつかせる。私は黙って破裂したカエルを指差し、次に自分の釣竿を指した。少年は肉片をひとつ、警戒の色を濃くしたまま私の掌に落とした。  案の定ザザムシの逃げた針にカエルの肉をつけ、川の中ほどに飛ばす。今度の着水には、破裂音の派手さはない。子どもたちは居心地悪そうに私を見守っている。楽しいところを邪魔してしまったかな。私は少しだけ罪悪感にとらわれた。  次の瞬間、勢いよく浮きが沈んだ。釣竿が小気味のいい弧を描く。引き寄せてみれば、20センチをゆうに超える大物のヤマメがかかっていた。  いつの間にか、少年たちも網の中を覗き込んでいる。 「塩焼きにするとうまいぞ。誰か、火を起こせるか?」  少年たちは輝いた目を私に向け、大きくうなずくと駆け出した。あるものは石を組み、あるものは流木を集めに。そしてライターを持つ少年が火をつける。  私は残ったカエルの肉をつけ、また針を放った。初夏の夕暮れを、子供たちと楽しく過すのも悪くない。一匹のカエルがつないでくれた坊主と坊主の友情を、ありがたく堪能しようと思う。
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