大師線

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大師線

 まだまだむすめのちいさかったころ、大師線をのったのはいつのころだったのであろうか、いちばん前でずうっとだっこしていたような気もするし、正月あけのすこしたったころのやすみの日であったのかもしれない。まだむすめをだっこするにはかるかったし、また正月七日をあけても、多少こんでいたようでもあるし、もちろん川崎大師でおりたということもないと思う。そんな大師線をむすめとふたりなんとなくのりにいったのであろう。鮫洲からおそらく普通で、京急川崎まででたのであろう。いまでもそうであるけれど、あのころは多摩川を普通でわたるということはほとんどなかったと思う。冬晴れのすんだ日のことで、六郷土手のホームを越えるとすぐの河川敷ではゴルフやら野球やらサッカーやらラグビーやらがくりひろげられていて、そう、夕刻であったのであろう、西日がきれいにさしていて、多摩川はきらきらときらきらとひかって見えていて、むすめはまぶしそうに、なにやらフードか帽子を目深にかぶっていたようである。多摩川をわたりおえると、すぐに目につき、大師線と関係あるものが気になりだす。  通常、京急川崎にて大師線にのるためには、本線のホームの階段をおり、もうしわけなさそうにしてある別棟の頭端式ののり場へと向かわなくてはならないのであるが、多摩川鉄橋をわたってすぐのところにS状のひきこみ線のようなのが、そのまま本線から大師線へと、さびきっているレールではあるがつなげられている。快特の速さでは気づきにくいかとも思われるが、これも普通のけしき普通にのっている流れているけしきである。もちろん、思いはあるものの、ポイントがかわってそのレールにひきこまられるということはまったくなく、ふつうに階段をおり、大師線のホームへと向かわなければならないのである。大師線のホームはなんだかくらくてせまくてこぢんまりとしているものの、まだ初詣にいくのであろうか、お客さんはけっこういて電車のくるのをならんでまっている。 むすめも電車をまっている。おりかえしのみじかい編成の、こんではいるものの、のんびりした電車に感じられている。おんなじようにいちばん前にのってだっこされている。少し遅れていたようで、お客さんがのったら、すぐにも発車する。おおきくおおきく右にカーブしてゆく。ぼんやりしていたわけではないと思うが、あの本線へのレールはわからなかった。
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