【第1章】 亡くした番号

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「小野さん。佐伯さんの今月末でのリリースは決定なんです。こちらとしても交代の要員を確保している状況です。」 かなり、急な話をしている佑一。 「そう言われましても。今のタイミングから別の案件を探すのは難しいです。」 SESでは、要員のリリース(プロジェクトからの離脱)は、余程のことがない限り契約を更新するタイミングで行う。 そうすることで、営業は他のプロジェクトに要員を提案し、要員は現在参画しているプロジェクトを離脱しても、翌月の月初からスムーズに次のプロジェクトへ参画することが出来る。 経営サイドから言うと、翌月頭から別のプロジェクトに参画をしてもらえれば、売上が上がり、利益も建つ。 だが、次のプロジェクトが決まらなければ、その要員は最悪だと1ヶ月を社内で過ごすことになる。(これを業界では『空き工数』と言う。) 空き工数が発生することで、売上と利益がない中で要員に給料を支払う分、赤字になってしまう。また、要員はモチベーションが下がってしまい仕事への意欲を失ってしまい、面談もうまくいかなくなり落ちてしまう。と言った悪循環に落ちてしまうのだ。 「それは、御社の問題ですよね。弊社としましては、以前から佐伯さんのパフォーマンスについては、お話をしてきましたし、交代要員の依頼もしてました。それでも、御社は交代要員の提案はなかったですよね。」 「弊社は、小さな会社で。交代要員を簡単に確保することは難しい状況でして。」 「それなら、今回は諦めてください。SESは、人と案件が見つかるタイミングと速度感が大事なのは、僕より営業を長くやってるんでしたらご存知ですよね。」 少し。いや、かなり嫌な顔をして佑一は言った。 佑一の姿勢に、小野は諦めざるおえなかった。 テーブルの上にあるアイスコーヒーがカランと音をたてたと同時に、小野は伝票を持ち、その場を去った。 小野が去る背中を見ながら、佑一は煙草を吹かした。 吐き出した煙は、空っぽの佑一の気持ちを表すように形もなく消えていった。
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