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秋川のお礼の言葉に、瀬田は心底うれしそうだった。
秋川とて、全く心にないことを言っているのではない。この、秋川よりも二歳年下の恋人は自分の好みの一品を探すべく、ワインショップや酒屋の店員へと質問を繰り出し、勉強していることは秋川にも分かっている。
「本当ですか?じゃあ、キスしてもいいですか?」
「え?・・・いいけど」
どうしてそうなるかは全く判らない秋川だったが、大型犬の如き無邪気さで抱き付いてくる瀬田の唇を秋川は右頬で受け止めた。
瀬田は直ぐに、秋川から離れた。
「着替えてきますね」
「あぁ」
瀬田の姿が自室へと消えてから、秋川は袋からワインを取り出した。
フランスのスパイシーな赤、コートデュローヌは秋川の好きな銘柄の一つだった。うれしい反面、秋川は気恥ずかしくなった。
思い出した様にくすぐったくなり、右の頬にそっと触れてみる。
大学時代からずっと抱いてきた恋愛感情を秋川へと打ち明け、そしてその想いを秋川に受け入れられてからというもの、瀬田はほんの少しだが変わった。
秋川と二人きりの時に限ってだが、秋川を名前で呼ぶようになった。さん付けだったが。
当初は呼び捨てでいい。と言った秋川に従っていた瀬田だったが、
「やっぱり呼び捨ては無理です。ゴメンナサイ。慎一さんって呼びますね」
と直ぐに音を上げた。
謝られまでして、そう瀬田に言われれば、秋川もそれ以上無理強いは出来ない。
口調も丁寧な、つまり以前のままだった。
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